梅の木も友達

私の団地の梅の木に貝殻虫が付く。

木は嫌なんだろうな、と思ったので、

カキカキして取った。

ほんとうは、取るだけでは駄目らしい。

でも、取っていると梅の花の良い香りが

してくる。

それは、11月なので、咲いてはいない。

きっと、お礼に香りをくれたのだと思う。

だから、彼も私の友達のつもり。

 

本屋で子供達と薔薇の話をしていた。

薔薇の本を見て、どれが好きか?とか。

とたんに辺りが、薔薇の香りで満たされた。

「わーっ、凄い良い香り!誰か薔薇を

持ってはるんや!」

「母さん、そんな人、何処にも居らんよ」

確かに、辺りには、誰も居なかった。

私達は、ちょっと、おかしい。

 

岡本は昔から梅の名所と言われている。

毎年、梅を見に行く。

その年も、出掛けた。途中で昔からの

友人に会った。でも、完全無視。

そりゃ、母親を虐待なんて聞いたら、私で

も嫌いになるかも。

(実際は私が、ひどい目あっていた。でも、

逆の噂を流されていた。)

でも、その方は、同じグループで、会えば

必ず話し込む。

そんな間柄だった。私は、めったに悲しい

と思わない人間だ。

でも、その時はさすがに、辛かった。

けれど、体だけは動いて、梅林に着く。

梅林では、全体の四割が、咲いている。

なかで、ひときわ大きな紅梅が、満開だ。

目を閉じると、少し離れている筈のその

梅の木の香りで、私の全身が包まれた。

明るい、大きな、光と共に。

この梅の木は、私の悲しみを知っていた。

暖かい光だった。

悲しみは消えた。

そこに大きな存在が確かにあった。

 

今年も、もう少し待って、行こうと思う。

岡本の梅林公園。