若い頃、猪名川の源流を探した

まだ、独身だった頃、友人が猪名川の源流

に行きたいと言った。

彼女が、なぜそう言ったのかは、わからない

兎に角、川をどんどん遡って行った。

ここが、きっと目指す所だと思う場所に

大きな石碑があった。

二人で、その前で何かを祈った。

その時出てこられたのが、白髪三千丈といったおじいさんだった。

 

その日、祖母の家に行くと、夕飯に海老

を買ってあるという。

その海老は活きていて、とても大きなものだった。

 

その前で祈らずにはいられない程の存在感

ところが、ガス台の前に、出てこられたのは

お昼に 出会ったあの白髪のおじいさんだった

 

えー!まさかに、そんなお方を食べられるはずがない。

「おばあちゃん。御免、この海老は食べられん。」

「そんなこと言わずに、食べなさい!」

 

今考えると、祖母はそれこそ思いきった

散財をしたに違いない。

 

そう言われても、一尾食べるのがせい一杯だった

 

「おばあちゃん、考えたら、海老って、

おじいさんって、いうんじゃなかった?」

 

お昼に出会ったおじいさんのお使いに

また、出逢えたと思えば良かったのかも

知れない。

祖母の散財にも気付かず、至らぬ孫は

仕様がない、

 

祖母は戌歳で、およそ現金に縁のなかった

人生だったそう。

でも、食べる事には、縁があったようで、

以前に書いたように、あの戦争中でさえ

パン、パイのようなパン、黒パン、バター、ケーキ、ハム、ソーセージ、が潤沢に食べられたと言う。

 

私も欲しかったなあ、おばあちゃんのあの

福耳。

なにせ、ゆっさゆっさ揺れてたからさ。

 

でも夫運は無かった。

彼が、大嫌いだったと言う。

その夫が、生まれ変わった私なんだけどさ。

夫時代には、けんもほろろだったけれど

生まれ変わった私には、良くしてくれた。

心の中で 祖母は祖父に侘びていたんだと思う。

 

頭が良くて、お人好し。料理が上手で、センスが良い。

 また、人の悪口を言わない人だった。

 

彼女の血縁であることは、あの難しかった母

の血縁であることの百倍素敵だった。

いえ、一京倍素敵だった。