祖母達の 遺産

公務員を辞めて、少し時間が出来た。

父方の祖母は  長く 長唄のお三味線をしていた。

「おばあちゃん、私に  お三味線教えて。」

「あんたは あかんわ。小さい頃お三味線持っても、カッコにならんし、なにより音があかん」そこまで言われては、ダメだ。

次の日、母方の祖母に言った「おばあちゃん、私に和裁、教えて。」

「ちょっと、こうしてみ。」といって、親指と人差し指を、ぎゅっとつけた。

「あんたは あかん」「えー、なんで?」

「あんたの指は  嵩高い。お針のひとは

ペチャッとならんとあかん。

なんぼやっても上手にならん。」

ということで、私はわが家に残る日本の伝統文化を継ぐこと出来なかった。

しばらくして、母方の祖母が亡くなった。

すると、母は、和裁の腕が長足の進歩を遂げたという。誠に 美しい遺産ではある。

でも、私はもらえない。